軟エックス線領域での非線形光学効果としての
ヘリウムイオンの2光子電離

物理学会2002年春発表資料(PowerPoint 432KB)
CLEO/QELS 2002 発表資料(PowerPoint 390KB)
K. Ishikawa and K. Midorikawa, Phys. Rev. A 65, 043405 (2002)

近年の高次高調波発生技術の進歩により、高強度のコヒーレント軟エックス線パルスの発生が可能になってきています。例えば、最近、チタンサファイアレーザーのパルス幅30fsの27次高調波(波長29.6nm)で500nJものパルスエネルギーが報告されました[1]。これを10mm2の領域に集光すれば1e14W/cm2という高輝度に達し、軟エックス線領域での非線形光学効果の観測が可能であると期待されます。

私たちは、軟エックス線領域での非線形光学効果としてのHe+の2光子電離の数値シミュレーションを行いました[2]。なぜHe+なのでしょうか?光電場電離を用いて容易に生成でき、その1s-2p遷移エネルギー(40.8eV)は27次高調波(41.85eV)に近く、水素様であるので正確な理論予測が可能だからです。どうして数値シミュレーションなのでしょうか?2次の摂動論による解析的な断面積の公式は、本研究の対象である高輝度・超短パルスの場合必ずしも成り立たないからです。私たちは、時間依存シュレーディンガー方程式を数値的に解き、He2+の収量を求めました。

図1にパルス幅30fsの27次高調波によるHe2+の収量をピーク強度の関数として示します。1e13W/cm2以上では電離確率は十分高く、実験による観測が有望であることが分かります。また、電離確率の飽和が少し見られるものの、依然として収量は輝度の2乗にほぼ比例しています。これは、パルス幅測定等の応用にとって重要な特性です。また、パルス幅が5fs以上であれば、He2+収量はパルス幅にほぼ比例することを確認しました。これより短いパルスの場合比例関係は成り立ちませんが、この領域では量子力学のテストを行うことができると期待されます。

 

図1 パルス幅30fsの27次高調波によるHe2+の収量(実線)。点線は、2次の摂動論による解析的な値。左は両対数プロット、右はスカラープロット。

[1] E. Takahashi et al., CLEO/Pacific Rim 2001, postdeadline paper WIPD1-1 (2001).
[2] K. Ishikawa and K. Midorikawa, Phys. Rev. A 65, 043405 (2002).

 

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