インパルシブ回転ラマン散乱における偏光の効果

応物学会2002年秋発表資料(PowerPoint 980KB)
K. Ishikawa, H. Kawano, and K. Midorikawa, Phys. Rev. A 66, 031802(R) (2002)

インパルシブ誘導ラマン散乱は、超短パルスレーザー(ポンプ光)がラマン媒質中に瞬時にフォノンを励起する現象で、励起フォノンによりプローブ光のスペクトル幅を広げパルス圧縮を行えることから注目されています[1]。本研究では、従来なされていない、楕円偏光のポンプ光を用いたインパルシブ回転ラマン散乱の数値シミュレーションを行いました。

媒質としては水素(0.5atm)充填中空ファイバー(内径126mm)を考えました。レーザーの電場の右円・左円偏光のそれぞれの成分の伝播に関する1次元非線形シュレーディンガー方程式(フォノンによる左右成分のカップリングを含む)と、フォノン励起の時間発展の方程式とを連立させて数値的に解きます。これらの方程式は、Holmes and Flusberg [2]による定式化を用いて導出しました。波長785nm、パルス幅40fs、ピーク強度10e13W/cm2のポンプ光に対するフォノン振幅の分布の楕円度依存性を、図1に示します。フォノン励起は、楕円度と伝播距離に強く依存し、また、直線偏光や円偏光の場合よりも楕円偏光の場合の方が大きくなることが分かります。

また、このように励起されたフォノンによる、強度の低いプローブ光(直線偏向)の散乱のシミュレーションも行いました。プローブ光のスペクトルの広がりは、ポンプ光の楕円度および伝播距離に依存して変わりますが、適切な楕円度のポンプ光を用いれば、直線偏向のポンプ光を用いた場合と同等のスペクトル幅を得られることを見出しました。

図1 パルス幅が40fsで、いくつかの異なる楕円度のポンプ光によって励起されるフォノン振幅の分布。

[1] 河野弘幸等、春季第49回応用物理学会関係連合講演会 28pZE1 (2002).
[2] R. Holmes and A. Flusberg, Phys. Rev. A 37, 1588 (1988).

 

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